ご近所と法律
境界線の上に立っている木は、どちらのものか。民法の付合と共有の考え方(世田谷区)
2026-09-11
「境にある木を切りたいと言ったら、あれはうちの木だと言われまして」——境目の木のご相談は、たいていこの形で止まっています。どちらが正しいかを言い合う前に、まず見る場所が決まっています。
まず、幹がどこに立っているか
民法第242条(不動産の付合)は「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する」としています。法務省の法制審議会 民法・不動産登記法部会の資料7は、この条文を引いて「竹木は土地に付合するため、通常は、土地所有者が竹木の所有者となると考えられる」と説明しています。ただし、権原によって竹木を土地に附属させた者がいる場合は、その者が所有者になるとも書いています。
つまり、原則として見るのは幹が立っている地面です。枝がどちらに張っているか、葉や実がどちらに落ちるか、どちらが手入れしてきたかではありません。
枝や根が越えても、所有は動きません。民法第233条第1項は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に枝を切除させることができるとしています。第4項は、越えた根は切り取ることができるとだけ定めています。枝と根で扱いが違う理由は隣の家からはみ出した枝は切っていいのか。2023年4月の民法改正で変わったことに書きました。
境界線の位置は、木を見ても分からない
幹の位置で見るとなると、次に要るのは境界線がどこかです。塀の内側か外側か、古い石が埋まっているか、では決まりません。
法務省は筆界を「土地が登記された際にその土地の範囲を区画するものとして定められた線」とし、「筆界は所有権の範囲と一致することが多いですが、一致しないこともあります」とも書いています。登記の線と、実際に所有が及んでいる線がずれることがあるということです。
登記事項証明書と、地図証明書や地積測量図などの図面証明書は登記所(世田谷区は東京法務局世田谷出張所)で請求できます。木の立っている側が区道や水路に接している場合は別の手続きで、区有地(道路・水路等)との土地境界確定・確認には土地所有者の申請が要ります(世田谷区 道路管理課境界確定担当・03-6432-7923)。
幹が境界にまたがっているとき
民法第229条は「境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀」を相隣者の共有に属するものと推定するとしています。並んでいるのはこの五つで、竹木は入っていません。境界線上の木を共有と推定する条文は、置かれていないということです。
一方で第233条第2項は、竹木が数人の共有に属するときは各共有者がその枝を切り取ることができると書いていて、木が数人の共有になること自体は想定されています。共有になるかどうかは、幹が線の上にあるという事実だけでなく、誰がいつ植えたか、第242条ただし書にあたる事情があるかで見ていきます。共有だという前提に立つ場合、第250条が持分は相等しいものと推定するとしているので、二人なら二分の一ずつが出発点です。
片方だけで切れるのか
共有の木を切る話は、共有物についてどの行為にあたるかで、要る同意が変わります。
| 行為の区分 |
条文 |
必要なもの |
| 変更(形状または効用の著しい変更を伴うもの) |
第251条第1項 |
他の共有者全員の同意 |
| 管理に関する事項 |
第252条第1項 |
持分の価格の過半数 |
| 保存行為 |
第252条第5項 |
各共有者が単独でできる |
木を根元から伐ってしまう作業は、形も効用も残らない行為です。変更にあたると考えれば、相手の同意なしには進みません。境界線を越えてきた枝については、第233条第2項が、竹木が数人の共有に属するときは各共有者がその枝を切り取ることができると定めていて、ここは改正で決着がついた部分です。定まっていないのは、境界線を越えていない枝を切る場合や、傷んだ枝を落として倒れないようにする作業が、変更・管理・保存のどれにあたるかです。先ほどの部会資料は改正前の検討段階の文書で、共有された竹木の枝を切ることの区分が定まらない前提で書かれています。
持分が二分の一ずつだと、管理にあたる行為でも「過半数」になりません。二人の共有では、一方だけでは動かせない場面が多いということです。相手を知ることができず、またはその所在を知ることができないときは、第251条第2項が変更について、第252条第2項第1号が管理について、残りの共有者で決められる旨の裁判を求める道を置いています。ただし、催告しても相手が賛否を明らかにしないときの裁判は第252条第2項第2号だけで、こちらは管理に関する事項に限られます。伐採を変更とみる立場に立つなら、相手が黙っているだけでは裁判所ルートには乗らない、ということになります。共有を終わらせたいときは第256条第1項が分割の請求を認めています。どちらも裁判所を通します。
切る前に確かめておくことと、話がつかないときの窓口
- 登記事項証明書と公図、地積測量図(東京法務局世田谷出張所、またはオンライン請求)
- 境界標が現地に残っているかどうか。写真を撮っておく
- 幹の根元が、その線のどちら側にどれだけかかっているか
- 誰がいつ植えたか、どちらが手入れしてきたか。古い写真があれば残す
- 幹周りと木の高さ。世田谷区の届出の対象は、地上1.5メートルの高さにおける幹周り80センチメートル以上の樹木の伐採行為と、高さ10メートル以上の樹木の伐採行為の二本立てです。幹が細くても、高さで対象になることがあります。区は届出の対象外も挙げていて、他のみどりの保全のために行う除伐等、農業・林業・造園業等において事業として行う伐採、枯損した樹木または危険な樹木の伐採、非常災害の応急措置として行う伐採、他の条例などで許可・届出を済ませたものが並んでいます。基準は世田谷区で庭木を切る前に。幹周り80センチ以上なら伐採届が要りますにまとめました
もめている間に木が弱っていくことがあります。民法第717条第1項は土地の工作物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害を生じたときの賠償責任を定め、同条第2項がこれを「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」に準用しています。決まらないまま倒れたときに、その先の話が残ります。
境界線そのものが分からない場合には、筆界特定制度があります。申請できるのは土地の所有者として登記されている人やその相続人などで、申請先は管轄法務局の筆界特定登記官です。所有権の範囲を特定する制度ではないと明記されていて、東京法務局は標準的な期間を「9か月」としています。
法律の当てはめで迷う部分は、世田谷区の弁護士相談で聞けます。区内在住・在勤・在学の方、1人25分、予約は電話のみで、希望日の1週間前の同じ曜日の午前9時から。担当支所は曜日で分かれています。書類作成や交渉は含まれず、係争中の案件も対象外です。
庭番にご相談いただけること
庭番は世田谷区とその周辺で、伐採、抜根、剪定、草刈り、庭の片付け、植栽・植え替えを請けています。八年、二千件ほど木や草を見てきました。境目の木は、どちらのものかが決まらないうちは作業に入れません。ただ、幹の根元が線に対してどう乗っているか、枝を落として危なさだけ下げられるかは下見で図に残せます。隣の方と話すときの材料になります。ご相談は電話とLINEで。
参考にした資料
この記事は2026年9月時点の法令と、国・区の公表資料によります。相談窓口や受付方法は変わることがあります。部会資料は改正前の検討段階の文書なので、条文そのものは上のe-Gov法令検索でご確認ください。