手入れと処分
外壁の蔦はどこまで自分で取れるか。東京都の壁面緑化ガイドラインが示す付着の仕組み
2026-09-06
「引っ張ればはがれると思ったんですが、壁の表面ごと来てしまって」——外壁のつるのご相談で最初に出てくる言葉です。心配されているのはたいてい、取ったあとの壁の見た目のほうです。
蔦は壁に引っかかっているのではない
東京都環境局の壁面緑化ガイドラインは、壁に直接登はんする植物について、気根もしくは吸着根(吸盤状器官)が建物などに付着することによって体を支えている、と説明しています。ナツヅタなどは巻ひげの先端が吸盤状に変化して糊様物質(ムコ多糖類など)を出し、ヘデラ類やテイカカズラなどは気根から多糖類やタンパク質が分泌されて付きます。
つまり、つるは壁に糊で留められています。手前のつるだけを引いても、吸盤や気根はその場に残り、強く引けば壁の表面が一緒に来ることがあります。取ったあと点々とした跡や輪郭が残るのは、この付き方からです。同ガイドラインは付着の強度は建物の表面構造に大きく影響を受けるとも書いていて、裏返せば、ざらついた面ほど深く食いついているということです。
自分で取れるのは、どこまでか
脚立に乗るかどうかが先です。国民生活センターが2019年3月に公表した「思わぬ大けがに!高齢者の脚立・はしごからの転落」によると、脚立やはしごの事故458件のうち433件が転落事故で、作業内容の記載がある243件では「剪定・収穫などの庭木に係る作業」が123件で最も多い。同資料の専門家コメントは、高さ2m未満であっても落下すれば人体には大きなダメージになり得る、としています。脚立に乗らずに済ませられないかが最初の分岐です。
地面に立って手が届く範囲であれば、次の順で進めるのが無理がありません。
- 先に根元のつるを断つ(理由は次の節)
- 葉が落ちて枝が乾いてから、太いつるを壁から離す
- 壁に残った気根や吸盤は、引かずにブラシで削る
- 目地や継ぎ目に入り込んだ部分は無理をしない
- 塗装面・タイル・モルタルは、目立たない場所で試してから広げる
外したつるや枝葉の出し方は自治体ごとに決まりがあり、世田谷区の分は世田谷区で剪定した枝や草の出し方。太さ10センチ・長さ50センチまでと束ね方の決まりにまとめました。
削ったあとに残る跡をどうするか
輪郭が残るのは、気根の下に入り込んだ糊のような物質と、長く覆われていた面とそうでない面の色の差が理由です。削ったあとしばらく乾かし、水と柔らかいブラシで洗う。目地やシーリング(充填材)の際は、ブラシを寝かせて当てる。それでも残るなら、そこから先は洗浄ではなく塗装の話になります。
高圧洗浄機は、素材と傷み具合を見てから。塗膜が浮いている壁、切れた目地、古いモルタルでは、跡は落ちても塗膜やシーリングごと落ちます。庭番は塗装を請けていないので、ここから先は塗装業者の領域として切り分けてお伝えしています。
つるは根元から断つ
壁の上のほうを刈り込んでも、翌年また同じところまで戻ります。地上部を切ることと、株を終わらせることは別だからです。
林業試験場研究報告第123号(現在の森林総合研究所)は、クズについて、単にツルを切断するのみでは台切りをくり返しているのと同じで、完全に駆除するには根株を腐らせるか、抜き取る以外にない、と書いています。日本緑化工学会誌の切土法面のクズ根絶試験(2019年)も、5処理を3年間比較して引き抜きと遮光処理で根絶が確認された、と報告しています。農研機構東北農業研究センターの資料は、クズのツルの伸びる長さは一日で最大30cm弱、一夏で30m以上と書いています。壁を覆ったつるは、そのまま雨樋、庇、隣家との境界へ進みます。
庭の壁で言えば、地際のつるを断ち、株を掘るところまでが一区切りです。ただし掘る前に、株がどこにあるかを確かめてください。壁を登っているつるが、隣の敷地や空き地から伸びてきていることは珍しくありません。
株が隣地にあるなら、勝手に切ることはできません。民法233条1項は、境界線を越える枝は、その竹木の所有者に切除させることができる、と定めています。自分で切れるのは3項に当たるとき——催告(さいこく|期限を切って求めること)しても切除しないとき、所有者が分からないか所在が不明のとき、急迫の事情があるとき——に限られます。根は4項で、境界線を越えた分を切り取ることができるとされています。
隣家から伸びてきた場合の順番は隣の家からはみ出した枝は切っていいのか。2023年4月の民法改正で変わったことに、空き地から伸びてきた場合は隣の空き地の草木が伸びてきたとき。世田谷区の環境美化等に関する条例と相談の順番に書きました。株が自分の敷地にあるときの、株を残す判断も含めた考え方は切り株は抜いたほうがいいのか。残す・枯らす・抜くの分かれ目(世田谷区)に書いています。
除草剤を使う前に見ておくこと
薬剤を考えるなら、容器の表示を先に見ます。農林水産省は、農薬登録のある除草剤には容器に「農林水産省登録第○○○○号」の記載があり、樹木や花きなどの栽培・管理(家庭菜園やガーデニングも含む)に使うものだと説明しています。登録のないものを農作物等の栽培・管理に利用することは法律で禁止されています。庭木や生垣の足元に使うものは登録番号を確かめてから買う。散布については、無風または風が弱いときに行うこと、事前に周辺住民等へ使用の目的、散布日時、種類及び使用者等の連絡先を周知することが挙げられています。隣家が近い住宅地では、この順番がそのまま参考になります。
庭番にご相談いただけること
庭番は世田谷区とその周辺で、伐採・抜根・剪定・草刈り・庭の片付け・植栽を請けています。八年、二千件ほど木や草を見てきました。壁のつるは、取る作業と、株を断つ作業と、跡の相談が別々に動きます。壁の全体、つるが立ち上がっている地際、道路や門までの通り道。この三枚の写真があると、話が早くなります。
参考にした資料
この記事は2026年9月時点の資料によります。資料の内容や制度は変わることがあります。